名古屋高等裁判所 昭和52年(行ス)6号 決定 1978年2月16日
抗告人 有限会社光楽食堂
相手方 豊橋税務署長
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告の趣旨と理由は、別紙即時抗告申立書(写)に記載されているとおりである。
二 まず記録を検討すると、相手方(被告)は抗告人(原告)の法人税の更正をするに際し、仕入金額を実額をもつて把握しえないとして、類似する同業者の差益率による推計によつて荒利益を算出したこと、相手方は右差益率の合理性を立証するため、訴外納税者八名の税申告書類のうち、納税者の氏名または法人名・納税地や住所地の一部・仕入先・借入金の借入先・役員および家族の状況・従業員の氏名・関係税理士の氏名住所等(以下「秘匿部分」という。)を貼り紙で秘匿し、納税者の氏名または法人名として仮称AないしHの符号を付したものを<証拠省略(以下「本件文書」という。)>として提出したこと、抗告人は右差益率の決定が不当であるとし、本件文書の成立・その内容の正確性を弾劾するなどの方法によりその合理性を争うために右秘匿部分の開示を求め、秘匿部分の貼り紙を取除いた本件文書の提出命令を申立てていること、原裁判所は右申立をその必要性がないとして却下したこと、以上の経緯が明らかである。
三 ところで、文書提出命令の申立に対する許否の裁判は、当該文書が民訴法三一二条各号の要件に該当するかどうかのほか、立証事項との関連においてその必要性がないかどうかをも基準にして決すべきものと考える。
これを本件についてみると、本件文書が所定の用紙をもつて所轄税務署に提出され受理された税申告書類であることは、右文書の形式・体裁・受理印等によつて否定し難いところであり、その作成名義人や関係税理士名等が明らかにされていないからといつて、これら文書を不真正のものとしてその証拠能力を排斥しなければならないものではない。そして相手方は、秘匿部分のある本件文書を荒利益算出のための推計資料として提出しているのであつて、これによつて当該同業者の業態・事業規模・立地条件等が抗告人と類似していることが証明されれば、右の推計の合理性が一応肯認され、もしその証明が足りないのであれば、相手方はその立証責任に属する課税の正当性を証明できない筋合になるのであつて、いずれにしても、前記秘匿部分が開示されなければ、推計の合理性に関する相手方の積極立証、抗告人側の反証ができないという性質のものではない。因みに、原審における抗告人代表者尋問の結果によると、同人は、本件文書の作成者をその申告内容等からかなり特定明示し、その記載が正確でない旨を供述しており、その他にも右の反証のための証人尋問を済ませていることが記録上明らかである(ただし、これらの供述の信憑性自体は原審裁判所の自由心証に委ねられるところである。)。原審における以上のような証拠関係に照らすと、前記秘匿部分の開示を求めるための本件文書提出命令の申立は、明らかにその必要性がないものということができ、原決定は右見地のもとに抗告人の申立を却下したものとして是認することができる。
なお、原決定は、本件文書の全部につきその必要性がないとして申立却下の決定をしたものであり、右のように必要性のないことを理由に文書提出命令の申立を却下するに際し、各文書について逐一その具体的理由を明示する必要はなく、原決定に所論のような理由を示さない違法はない。
四 よつて、原決定は正当であり、本件抗告は理由がないから、民訴法四一四条・三八四条に従いこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法九五条・八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 村上悦雄 深田源次 春日民雄)
別紙 抗告の理由
一 原決定の趣旨
原告が昭和四六年四月二四日付でなした文書提出命令はこれを却下する。
二 原決定の理由
必要性がない。
三 原決定の違法性
1 理由不明示の違法
原裁判所は昭和五二年一一月九日の口頭弁論において口頭にて「必要性がない」という理由だけで文書提出命令を却下したが、全く具体的な理由を明らかにしなかつた。原告の提出命令の申立をした文書は一つではなくて<証拠省略>までの複数の事業者の納税申告書などであり、その提出の許否はその文書の逐一について検討しなければならないところ、原裁判所は十把一からげに具体的理由を明示することなく却下してしまつたのは、経験則に著しく反する違法がある。本事件の前の抗告審名古屋高等裁判所は「未だ本件提出命令申立の必要性について原裁判所の判断を経ていない本件においては、受訴裁判所である原審をして訴訟の進行状況立証の必要性等の観点から本件文書各々について逐一本申立の許否を判断させるのが相当である」と判示しているにもかかわらず、原裁判所はこれに違反し、本件申立の文書各々について逐一許否を判断せず、その判断理由を文書の各々について逐一明示しないまま却下決定をしたことはまことに違法であり、抗告審の決定に違反するものである。
2 文書提出命令を不必要とした違法
(1) 被告が秘匿部分のある<証拠省略(以下本件文書という)>を本訴訟に提出してきたは、推計計算の方法により所得額の算定をした更正処分の正当性を立証するためであつた。すなわち被告は、
「原告会社においては、日計表の記載洩れ、裏預金、の事実があつたので、日計表及びこれにもとづいて記載された帳簿をもとに実額計算をすることは到底不可能であつたので、やむなく法人税法第一三一条にもとづき推計の方法によつて課税することとした。
原告と収入支出の状況、従業員数、店舗状況その他事業規模が類似する同業者の差益率を調査し、これを売上額に乗じて荒利益を算出した。右同業者の差益率は昭和三八年五月一日から三九年四月三〇日迄の第一年度においては四二%、昭和三九年五月一日から四一年四月三〇日迄の第二、第三年度においては四三%である」と主張し、その立証のため本件文書(被告が原告の類似同業者だと主張する八軒の法人あるいは個人の確定申告書、損益計算書、事業概況説明書、青色申告決算書などのうち住所氏名などを隠秘して本件文書を税務署へ提出した者の特定性を不可能とするもの)を証拠調のため提出してきたのである。
(2) もちろん被告は推計計算による所得額の算定方法以外に実額計算による方法も主張している。被告の右の実額計算方法による主張は右の推計計算方法による主張に後れて提出されたものであるが、被告は実額計算主張を提出したにもかかわらず、依然として推計計算方法による主張を撤回していないし、その立証のための本件文書の証拠調請求を撤回していない。被告は四八年六月一日付準備書面において実額計算方法の主張は原処分の正当性を裏づける間接事実として主張したにすぎないとしている。
右のとおり本訴訟の主争点は推計計算方法の主張をめぐつてのことであることは明らかである。
従つて原告としては本件訴訟に勝訴するためには、被告の推計計算方法の主張に対して有効に反論してその主張に根拠なきことを明白にし、かつ本件文書の証拠価値を減殺せしめることが一番有効かつ必要な攻撃防禦方法である。これをおこなわない限り原告に勝訴の可能性がないといつても過言ではない。
(3) 本件文書は申告書の住所氏名などその特定性を明示する部分を隠秘し、その余の部分を開示している。例えば事業種目(モーテルなど)、住所のうち市町村名まで、従業員数、兼業種目および全体売上高に占める割合(書いてないのも相当数ある)、設備名称(同右)、仕入材料名(同右)、収入別の割合A料理等の売り上げ、B酒類の売上げ、C酒以外の飲物の売上げ、D菓子類の売上げ、Eその他の売上げ(同右)、料理飲物等の定価(同右)、客室の状況(同右)などが記載されているが、記載は全部共通した方法によるものではない。
被告は原告に適用されるべき差益率を四二ないし四三%とし、その立証のため本件文書を証拠として提出しているが、原告としては第一に本件文書が真正に成立しているかどうか、第二に本件文書の記載内容が正当かどうか、第三に本件文書の記載者は原告と同一の営業種目、営業内容であり共通差益率を適用するのが正当かどうかを問題にして本件文書の証拠価値を減殺する必要に迫られている。
(4) 原告はまず第一に本件文書が真正に成立しているかを問題にせざるを得ない。本件文書は作成者欄をおおい隠してその作成者が誰か不明にしている。作成者を不明とする書証などそもそもその証拠価値に重大な疑問があるものならず、本当に本件文書は所得申告者によつて作成されているか疑いを持たざるをえない。
すなわち、誰が作成したか判らぬ文書では本当に作成者がその文書を作成したか判る余地がない。従つて原告としては本件文書の作成者が誰かを知り、その者によつて本件文書を作成したか否か知る、奪われることの出来ない根本的利益を有する。
(5) 原告は第二に、本件文書の内容が正当であるかどうかを知る利益がある。被告は本件文書のうち特定性を示す記載部分だけを隠秘したと主張するが、隠秘された部分がその部分に限定されているかどうかの裏付けは被告の一方的主張以外何もない。従つて本当に被告がその部分だけに限定しているかどうか本件文書の隠秘部分全体を開示して検討する必要があり、立証上その必要に迫られている。
(6) 原告は第三に本件文書の作成者という申告者らが原告とその差益率の共通性を肯定できる同規模の同業者であるかどうかを知り、それを立証上有利に主張する利益を有している。
被告は本件文書の作成者について、「名古屋市境界以東より静岡県弁天島に至る国道一号線沿いの主として原告と同じ業態である交通、運輸関係者を顧客とする八四件を抽出し、そのうち原告と規模が類似しないもの、申告内容の不明のもの、喫茶を主とするものを除外した残る六九件と豊橋駅付近沿いの原告と同じ業態のもの一件を対象としたものであり、原告と同じ業態とは交通運輸関係者を顧客とする所謂ドライブインであり、原告と収入金額、仕入材料、従業員数が類似する同業者である。」と主張し、一応差益率調査の合理性を装つて主張しているが、右を裏付けるものは被告の主張以外何も無く、真実性の保障は無である。本訴訟の最大重要争点である差益率について原告から批判的検討の可能性を全て奪い取る本件却下決定を出しておきながら、被告の主張する差益率調査は合理的で本件文書は信用に足ると判断するならば、それは一方の訴訟当事者には全く攻撃防禦方法を剥奪して他方の言を無批判的に採用することとなり、公平たる証拠裁判の大原則は地に落つことになる。
被告の主張自体からいつても被告の主張する差益率とはその合理性に疑いがある。すなわち被告は名古屋市境界以東から静岡県弁天島に至る国道一号線沿いのドライブイン八四件を抽出し、そのうち原告と規模が類似しないもの、申告内容の不明のもの、喫茶を主とするものを除外した残る六九件と豊橋駅付近の道路沿いの原告と同じ業態の者一件合計七〇件を対象としたと主張しているが、被告が本訴において主張し、かつ書証として提出してきているのは八件分だけであり、何故被告が七〇件のうち八件分だけを選択したのか疑問がある。そこに被告の恣意性を見出さざるをえない。被告は七〇件あるというならば七〇件全部について差益率を計算して平均をとれば一番合理的であるにも拘らず、七〇件のうち八件だけを選択し、どの基準で八件を選択したのかその基準を明らかにしていない。原告としては被告は自らの立証に有利な八件をことさら選択したのではないかと疑わざるをえないし、被告が右選択の合理性の保障を何ら明らかにせず黙秘している以上、公正な第三者なら当然疑いを入れてしかるべきところである。だからこそ原告は本件文書の八件の氏名を知り、他の六二件との業態並びに差益率の異同を調査し、被告の選択の不合理性を主張立証する訴訟上の必要に迫られているのだ、そのため本件文書の提出命令は必要不可決である。
被告は本件文書の八件のドライブインが原告と業態が同一の同業者であると主張しているが、その保障は無い。確かに本件文書のうち隠秘されていない部分には従業員数、設備名称、仕入材料名、料理飲食物等の定価、客室の状況などの記載欄があるが、記載されているものもあれば記載されていないものもあり、また記載事項が正確であるかについては何の保障も無く、(おおむね申告者は自らの営業規模を正確に記載したくないものである。)、本件文書の隠秘されていない部分だけを判断材料として、右八件が原告と同業態にあるかどうか判断することは困難である。従つて原告としては本件文書を開示させて申告者の氏名を知り、原告と同じ営業規模であつて共通の差益率を適用することが合理的であるかについても充分主張立証する必要に迫られている。被告は単に右八件が原告と同一の営業規模のドライブインと主張しているが、トラツク運転手を対象にしている大衆食堂か、観光客を対象にするやや高級な食堂か、みやげ物販売あるいは旅館を兼営しているのか、駐車場が広いのか狭いのか、昼夜食堂かどうか、立地条件が共通しているのか、店舗の新旧、顧客の誘引力の強弱、広告宣伝の有無、等を比較検討しない限り、共通差益率を適用する基礎が無い。被告はこの点を無視して本件文書の隠秘されていない記載事項により八件が原告と同じ営業規模であると主張し、原裁判所も被告の右主張を鵜呑みにしているが、それは全く不当であり、本件文書の隠秘部分を開示させて原告が八件の氏名を知り、同じ営業規模であるか否かにつき前記の基準により詳細に調査検討すれば必ずや別の原告に有利な結論に至るであろう。
だからこそ原告は本訴訟に勝訴するため本件文書の開示を要求する訴訟上の必要に迫られているにも拘らず、原裁判所が「必要性無し」と判断したのは違法決定である。原決定は抗告人(原告)の攻撃防禦方法を著しく不当に剥奪する処置である。
四 よつて抗告人(原告)は原決定の取り消しを求めて即時抗告を提起する。
【参考】差戻し後、原審に提出された課税庁側の和和五三年四月二八日付け意見書
原告の昭和四六年四月二四日付文書提出命令の申立ては、立証の必要性の存在しないものであるから却下されるべきである。
一 文書提出命令の申立ては、挙証者が相手方又は第三者の所持する文書を書証として提出しようとする場合に、裁判所に対し、当該文書の提出命令を求めることにより行う書証,の申出である。そして、この申立ては、書証の証拠調のため、すなわち、文書の記載内容を証明の手段とする場合に限つて許されるものである。ところで、本件の場合、被告は、「原告の仕入数額の正確な計算が困難であつたため、収入支出の状況、従業員数、店舗状況その他事業規模が類似する同業者の差益率を調査し、これを原告の売上額(注・この点については当事者間に争いがない)に乗じて荒利益を算出」することとして、原告に適用さるべき売上差益率を立証するため本件各文書を提出したのである。ところが原告は、「仕入数額の正確な計算が困難である」との被告の主張を否認し(昭和四三、一二、二〇付原告準備書面三項の(二))、仕入実額の計算は可能であるとして、原告の簿外仕入の実額は、係争第一年度が一、六一〇、二三八円、同第二年度が一、九四八、八九二円、同第三年度が一、八一五、八一一円である旨具体的な数額を主張し、その立証として<証拠省略>を提出したうえ、辻岡武司、伊藤正行両名の証人を申請して証人調をなしているのである。つまり、原告は基本的には売上差益率を用いた推計方法によらずとも、原告の所得金額は計算出来る旨主張し、その旨の立証をしている(これに応じて、被告も売上原価すなわち仕入実額を計算すると、係争第一年度が八、三〇八、一五一円、同第二年度が七、四七六、八一八円、同第三年度が九、六七九、八八一円である旨主張しているー昭和四七、一一、二一被告準備書面)のであるから、本件各文書は、その性質上原告の仕入実額を立証するためには、全く関係のないものというべきである。したがつて、本件文書提出命令は、この点において必要性を欠くものといわなければならない。
二1 もつとも、原告は、右のとおり仕入額について実額計算が可能である旨主張するとともに、一方において売上差益率の合理性について主張している(昭和四四・一二・五原告準備書面一項)。
しかし原告が本件売上差益率が合理性を欠くと主張する根拠は、一に比準同業者Bが交通運輸関係者を顧客とする店でなく単なる食堂であるからBを比準同業者として考慮することが不当である、というにある(昭和四四、一二、五原告準備書面一項)。しかして、原告の本件文書提出命令の申立てが右の点を立証する趣旨であるならば、Bが交通運輸関係者を顧客とする店でなく、一般の食堂であること自体は被告の自認するところであるから、原告の右主張を立証するためにBに関する<証拠省略>について文書提出命令を求める必要性は全くない。
加うるに、原告は、Bの営業規模、立地条件、売上価格等営業の実態を立証しうる証人として「佐藤国彦」の証人申請をしているのであるから、この点からしても、Bに関する<証拠省略>の文書提出を求める必要性は存在しないというべきである。
2 右に述べたとおり、原告が被告主張の売上差益率が合理性を欠くと主張する理由が、Bを考慮した点にあるとする以上、B以外の同業者、つまり、A、C、D、E、F、G、Hに関する<証拠省略>についての文書提出を求める必要性は全く存在しないというべきである。
現に原告は、前記の昭和四四、一二、五原告準備書面で、Bを除いて各年度の平均売上差益率を算定すると、係争第一年度が四〇、六四%、同第二年度が四〇、七九%、同第三年度が四四、一五%であるとしたうえ、これより原告に適用される売上差益率は、三年度とも四〇%であると主張し、B以外の同業者については、被告の主張を積極的な援用さえしているのである。
3 一般に同業者の売上差益率を用いて当該納税者の荒利益の金額(あるいは売上原価の額)を推計する場合に、同業者の売上差益率を立証する趣旨は、個々の同業者の売上金額及び荒利益の金額を確定する点にあるのではなく、当該納税者と業態、規模、立地条件等において類似する同業者の売上差益率が一定の数値に収斂するものであるという経験則というべきものを立証する点にある。
本件において、被告は、<証拠省略>によつて、同業者の売上差益率の合理性の立証に必要な限りで売上金額及び荒利益の額のほかその業種、業態、規模、(売上金額、設備、従業員数)、立地条件、取扱品目、単価等の営業条件を明らかにしており、<証拠省略>中秘匿されているのは、納税者の氏名又は法人名、納税地や住所地の一部、仕入先、借入金の借入先、役員及び家族の状況、従業員の氏名並びに関係税理士の住所氏名を記載した部分にすぎず、これら秘匿部分は、元来その性質上本件売上差益率の合理性の有無とは全く関係のない事柄に属することは明らかである。
すなわち、原告が本件各文書に関すろ秘匿部分の開示を求める主眼は、反証のため「納税者の氏名又は法人名」と「納税地や住所地の一部」を特定せんとするにあると思われるが、本件においては、比準同業者の範囲が「名古屋市境界以東(境川)より静岡県弁天島に至る国道一号線沿いの主として原告と同じ業態である交通運輸関係者を顧客とし原告と規模等が類似するもの」及び「豊橋駅付近の道路沿いの原告と同じ業態(取扱品目も略々大同小異で顧客も通り客が殆んどである)の者」と極めて限定されているところ、前述のようないわば経験則としての売上差益率の合理性について攻撃防禦をなし裁判所が心証を形成する上では、右の程度の特定をもつて必要にして十分であるといわなければならない。
けだし、これら比準同業者は、交通運輸関係者等を顧客として相互に競合するエリアにおいて食堂業を営み、その業態からしてその営業内容、取扱品目にそれ程多様な差異は認められないのであるから、比準者の所在地(町名までは明らかにされている)と売上金額等が判明していれば、原告において反証を挙げて争うことは必ずしも困難といえないし(福岡地裁昭和四三年(行ウ)第一〇〇号事件、昭和四九年八月二七日判決、税務訴訟資料七六号三四六頁参照)、また、原告は、本件各文書を所持する被告税務署長所属職員の尋問や、原告所持の帳簿書類、原始記録等の提出により反証を行なうことも可能であるし(東京地裁昭和四三年(行ウ)第一四三号事件 東京地裁昭和四三年(行ウ)第二二七号事件、昭和四九年一一月六日判決、訟務月報二〇巻一三号一六〇頁、税務訴訟資料七七号三五五頁参照)、そもそも納税者たる原告は、自らの所得に関し最もよく知るものであるから立証技術の工夫によつて他に反証で挙げることもさして困難でないから(東京地裁昭和二三年(行ウ)第一三六号事件、昭和四九年一一月七日判決、訟務月報二〇巻一三号一七一頁、税務訴訟資料七七号三九九頁)、主として比率同業者の住所氏名の開示を求める本件文書提出命令の申立ては、その必要性を欠くものといわなければならない(なお、大阪地裁昭和四二年(行ウ)第四号事件、昭和五〇年七月四日判決、京都地裁昭和四三年(行ウ)第一一三号の一事件、昭和五一年三月三一日判決、訟務月報二二巻四号二六五頁参照)。そして右のことは、住所氏名を秘匿した同業者資料による推計の合理性を肯定した判例が記述した分の外に、別表のとおり多数存在することからも容易に首肯することができる。
別表
住所氏名を秘匿した同業者資料による推計の合理性を肯定した判例
(1) 東京地裁昭和四四年(行ウ)第三五号事件、昭和四七年四月一一日判決(訟務月報一八巻七号一二一頁税務訴訟資料六五号七三八頁)
(2) 東京地裁昭和四四年(行ウ)第一〇五号事件、昭和四九年七月一九日判決(訟務月報二〇巻一一号一八四頁税務訴訟資料七六号一一六頁)
(3) 東京地裁昭和四四年(行ウ)第一〇三号事件、昭和五〇年一月三一日判決(訟務月報二一巻四号一四八頁税務訴訟資料八〇号七三頁)
(4) 東京地裁昭和四四年(行ウ)第一三一号事件、昭和五〇年三月一七日判決(訟務月報二一巻五号二〇一頁税務訴訟資料八〇号四〇四頁)
(5) 東京地裁昭和四三年(行ウ)第二三六号事件、昭和五〇年四月二三日判決(税務訴訟資料八一号三〇〇頁)
(6) 東京地裁昭和四五年(行ウ)第一六一号事件、昭和五〇年七月一五日判決(税務訴訟資料八二号四一〇頁)
(7) 東京高裁昭和四六年(行コ)第三六号事件、昭和四八年三月一六日判決(訟務月報一九巻八号一三四頁税務訴訟資料六九号九〇九頁)
(8) 最高裁昭和四八年(行ツ)第七二号事件、昭和五一年六月三日判決(右(7)の判決を支持)